京都の近代建築を考える会

近代建築を考える会です

辻徳

第9回市民が選ぶ文化財
「辻商店」

f:id:kyo-kindai-archi:20190225140355j:plain
辻徳

所在地  京都市下京区堀川通四条下る四条堀川町
竣工年  昭和3年(1928年)
構造規模 鉄筋コンクリート造3階建
設計者  不詳
施工者  益井工務店
所有者  辻商店

選考理由
祇園祭宵山、夕方から四条通は人で溢れ、堀川通はそれを迂回する車やバスで大混雑します。
そんな四条堀川の交差点を少し下った西側に「辻商店」はあります。
平入りながら大きな三角屋根を載せ、ロンバルディアバンドと呼ばれる装飾を軒廻りに巡らせ、2,3階を貫くようなアーチ窓が特徴です。
ある建築ガイドブックに「ショートケーキのような」と表現されている「はんなり」とした建物で、堀川通を行く車やバスの車窓から眺めて、記憶している市民も多いと思います。
昭和3年に現当主の祖父が建築され、昭和31年には堀川通の拡幅により曳家されています。
鉄筋コンクリート造3階建で、屋根は鉄骨を組んで平瓦を葺いています。
設計者は不詳、施工の益井工務店についてもどのような業者であったか不明ですが、木造が主流だったこの時代に、鉄筋コンクリートのビルを建て、その中に木造町家を造り込んでいる形は注目に値します。
内部は1階表を事務所とし、奥は典型的な町家商家の間取りをしており、2階は中廊下式の居室空間となっていて、昭和初期における町家の発展の中で構造や外観の進歩性と生活空間の保守性の共存が見られます。
鉄筋コンクリートの建物を曳家する大工事をされながら、外観のみならず内部の意匠もむやみに手を加えず、辻商店はこの建物を大変大事に使用されて現在に至っています。
最近、1階事務所部分を店舗とされ、事務所カウンターや床タイル等の内部はそのままに、商品の「懐紙」が奥ゆかしく並べられ、室内の愛らしさも市民が目にすることができるようになったのは嬉しいことです。
また、多角形の応接室や住居部分、照明器具など昭和初期のデザインが良く残っています。
このように、街の風景として市民に記憶され、昭和初期の町家の変化を記録し、なによりも所有者のこの建物を大切に愛着を持って使われていることは、私たち近代建築を愛する市民が「市民が選ぶ文化財」として顕彰するにふさわしい建築であり、ここに選定致します。
2012年6月3日  京都の近代建築を考える会